チームを作る力④

リーダー

任せて、評価する

自分の仕事だと思ったとき、人は頑張る

いい会社というのは、全部の人が、自分のやっている仕事が自分の仕事だと思っている会社です。
悪い会社は全部の人が、自分のやっている仕事が人の仕事だと思っている会社です。
いい会社にするためには、リーダーは、メンバーに自分で仕事を考えさせること。
そして、できるだけメンバーの意見を取り入れて仕事をしたいと思うことが大切です。
もちろん、メンバーの考えが本質的に間違っているものは、だめだと思います。
その時は、これは違うということを言わないといけません。

しかし、本質的に間違っていない、その考え方も方法論のひとつで、メンバーの案もいいし、自分の案もいい。
それで自分の案がちょっといいぐらいだったら、メンバーの案で仕事をさせるべきだと思います。
それを、「こうだからこういうふうにしてやれ」、あるいは、「あなたが考えているこの方法よりこっちの方がいいんだ」というように、リーダーが全部自分の考えでメンバーにやらせようとすると、メンバーのモチベーションは低下します。

「仕事の成果=能力×モチベーション」です。
いくら、能力が高くても、いいアイデアであっても、実行する人のモチベーションが低い状態では仕事の成果は高くなりません。
やはり自分の考えにもとづいて、自分で自由にできる。
自分で仕事のワンサイクルを全部回せる。
自分で企画して、自分で最後までできる。
それがやはり自己実現とか、成長実感につながるのです。
そういう仕事のやり方が人間は一番うれしく感じるのです。

その結果、失敗するかもしれません。
しかし、リーダーの考えでやったら必ず成功するというものではないのですから、失敗する確率は、本来そう変わらないはずです。
むしろ、自分の仕事だと思ってやって失敗したのであれば、その失敗を糧にすることができるでしょう。
失敗体験がメンバーを育てることになるのです。

しかし、人の仕事だと思ってやって失敗したのであれば、「命令された通りやったのですけれど」という言い訳しか生まれません。
失敗体験がメンバーを腐らせることになります。
失敗するのだったら、早く失敗して、小さく失敗して、たくさん学習することで、将来大きい致命的な失敗をしないように育ててあげた方が、メンバーのためになります。
それにはリーダーが、「失敗するのだったら自分がいるので、思い切ってやってみろ」と言って、どんどん任せていくようにすべきなのです。

箸の上げ下ろしまで指図しない

そしていったん任せたら、その後は半分目をつぶらないといけないかと思います。
つまり、耐えるということです。
言いたいことはいろいろあるでしょうけど、「これはあなたの考え方・やり方に任せたので何月何日までにやって下さい」と言ったら、リーダーは耐えて、メンバーに最後までやってもらわないといけません。
もちろん、「任せて任せず」という松下幸之助さんの言葉があるように、任せたからといって、あとは忘れてしまうのではなく、いつも頭の中では気にしていて、必要に応じて報告を求めて、その時に本質的に達成すべきことや基準がずれているようだったら、修正するような助言や指導をすることは必要です。
しかし、そういったおおもとがずれていないのであれば、それ以上は細かくやらないということが肝心です。
それを間違って、任せている過程で、ああやれ、こうやれと、細かく箸の上げ下ろしまで指図をしたら、メンバーは仕事をしたくなくなります。
あまりにも言い過ぎると、優秀なメンバーほど離れていくことになります。
「任せる」ことは重要ですが、「任せ方」も同じように重要なのです。

任せる時は、ゴールイメージを必ず最初に共有せよ

さて、ここで一つ、任せる時の注意点を加えておきます。
メンバーに仕事を任せる時は、リーダーとして本質的に達成してほしいことやその基準を最初にしっかりとすりあわせておくことを忘れないようにしてください。
それがすりあっていないうちは、すりあうまでコミュニケーションをする。
すりあっていないうちは任せないようにするということです。
もちろん先ほど述べたように、途中でも、その確認はするということです。
これがずれていると、本人は頑張ってやっているつもりだったのに、リーダーが求めているものと違う成果になってしまいます。
これはお互いにとって不幸を招きます。
気をつけなければならないのは、メンバーの中には、リーダーの言っていることを聞いているふり、分かったふりをする人がいるということです。
リーダーはそこに敏感でなければいけません。
聞いているふり、分かったふりをしているなと感じたら、メンバーが分かるまで、納得がいくまで、しつこく話をするべきです。
譲ってはいけないものを甘くしてはいけないのです。
任せようと思ったら、そこのところをあいまいにしてはいけません。
こちらはそれをやってもらえるものだ、分かってやっているものだと思う、
向こうはそうではない。
そうすると最終成果にずれが発生します。
このことが、お互いの信頼関係に亀裂を入れることにもなります。

任せたら、評価をしっかり伝えること

最後に、「任せる」というリーダーの仕事を完成させるためには、「評価」をしてあげなければいけません。
任せた仕事を、メンバーが成功しているのか失敗しているのあkを、リーダーはよく見てあげ、日常会話や必要なタイミングで、その評価を伝えてあげることが大切なのです。
いい成果であるならば、よくやったねということを、違っているということであったら、これが違っています、足りていませんと伝えるということです。
そうしないと、足りていない、違っている、失敗していると気づかずに、ずっと成功し続けているかのように思う人が多くなってしまいます。
仕事を任せるならば、評価をしっかりやらないと、足りない水準でメンバーが仕事をやってしまうようになるのです。

当然、成果をあげているならば、誉めてもらえれば、さらにモチベーションは高まり、次はもっと頑張ろうという意欲がかきたてられます。
任せたことをしっかり評価してあげる、このことは人を成長させるうえで、とても大切な要因になります。
逆に、一番よくないのは、評価をはっきり伝えないことです。
これだと成長もしませんし、このリーダーは自分に関心がないのだな、とメンバーは思うようになります。
そうすると、仕事を適当にするようになるし、リーダーから離れていくようにもなってしまいます。
任せたら、評価までしっかりする。
ここまでやって任せるという仕事は完成するのです。

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柳井正 株式会社PHP研究所 2015 

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