期待し、長所を活かす
自分流のやり方で期待を伝える
商売に天才、秀才はいりません。
商売の世界は凡人でも非凡な成果を得ることができるのです。
それがチーム力のすごさです。
そのためには、個々人のモチベーションが大きなテーマになってきます。
仕事を「任せる」ことは、その重要なポイントです。
ここでもう一つ忘れてはならない大切なことがあります。
それは「期待する」ということです。
「あなたならできる」という期待、「あなたを信じている」という期待。
そういう期待を持ってメンバーと向き合うということです。
人間は期待されているかどうかを感じる力を持っています。
リーダーがメンバーと向き合った時の目、態度、日頃の接触の仕方や頻度、そういったものからメンバーはリーダーの自分に対する期待度を読み取ることができます。
つまり、リーダーが本当にどう思っているのかということが、結構メンバーには伝わってしまうということです。
「どうせこのメンバーの能力はこの程度だろう」という思いでメンバーを扱うリーダーのもとでは、本気になって頑張ろうという気持ちが湧いてきません。
ですから、メンバーに高い成果を要求するのであれば、その分だけメンバーに対する期待の気持ちをセットで届けないと、モチベーションを高めるというリーダーの仕事は完成しないということです。
期待を言葉にすることが有効な時であるならば、言葉にすることも必要です。
ただし、上司として技術的・表面的に伝えたところで、そんなものは見透かされますから、やはり大切なのは、根っこの思いです。
根っこの思いがあれば、叱咤の中にも人は期待を感じることができます。
人は人から期待をされれば、その期待にこたえたいという気持ちを持った生き物です。
あなたもそんな経験を持っていると思います。
それでしたら、ぜひ、あなたのチームのメンバーに対しても、大いに期待をしてあげてください。
伝え方は、自分自身に一番似合っているやり方を自分で発見するようにしてください。
その人の個性が反映された、その人らしい期待のかけ方が一番です。
技術ではありません。
心です。
期待をすることは、メンバーの成果を要求する人の義務であり、責任です。
そのことなしに、メンバーが本気度100パーセントで要求にこたえてくれる、ということはないと思って下さい。
長所も短所も含めてメンバーの実態をよく理解する
ところで、どうやったらこの根っこの思いを持てるようになるのでしょうか。
実は、メンバーのことをいい加減に見ている人は、いつまでたってもメンバーに期待をすることができません。
メンバーに期待ができる人は、メンバーのことをよく見ている人です。
よく見るというのは、その人の実体を全部しっかりと見るということです。
長所が何かをしっかり見る。
短所は何かをしっかり見る。
人間は、過去の自分の経験などの影響を受けて、偏見や先入観を必ず持っているものです。
その結果、メンバーの実体を本当によく見ないまま表面的なことから、「この人はこういう人だ」と決めつけてしまう傾向があります。
そうやって見てしまうと、実体が何も見えなくなってしまいます。
やはり、そうではなくて、「このメンバーは何ができるのか」「ひょっとしたら、こいつはこんなことができるのではないか」、そういった思いで見ていく。
そして短所に関しても、「どうしたら短所が消えるようになるのか」「短所が致命傷とならないようにするにはどうしてあげたらいいか」を考えながら見るということです。
こうやって、長所も短所も含めて、その人間の実体をあるがままに受け入れる。
そしてどうやったらその人が一番活きるのかをあれこれ考える。
それがメンバーに対する基本姿勢です。
長所=強みを活かす人事を考える
その時、人材活用の要諦として言えることは、やはり長所を伸ばす方向で活用を考えるということです。
人は長所を伸ばしていってあげると、その長所を活かして成果をあげたいと思うようになります。
そうすると、自然と自分の短所を消す方法、あるいはそれが致命傷にならない方法を考えるようになります。
例えば、他の人に自分の短所の部分を手伝ってもらうことをお願いしたり、あるいは、自分で気をつけながら仕事をするようになったりします。
人から指摘されても人は修正しようと思わないものですが、自分のためだと思ったら、自分で自分の短所をカバーしようと動くようになるものなのです。
ところが、メンバーの実体を全部しっかり見ない人に限って、短所ばかり目がいきます。
そして短所の指摘ばかりグチグチ言う。
短所が気になって仕方がないから、任せることができなくなります。
期待の思いも伝わってきません。
「このリーダーは、自分のことをこの程度に見ているんだろうな」と分かってしまうので、メンバーのモチベーションがあがることはありません。
ものは考えようです。
長所と短所は表裏一体のものです。
長所と思うことが短所になったり、短所と思うことが長所になることもあります。
例えば、「できるだけ短時間でやろう」とする人は、それが長所とも言えますが、場合によっては「もっとよく考えて仕事をしないといけない」という短所になることもあります。
逆に短所だって、見方によっては長所になるのですから、人を見る時は、先入観で否定的にばかり見ないように習慣づけることがリーダーには求められます。
ドラッカーは「あらゆる者が、強みによって報酬を手にする。弱みによってではない」と言っています。
あなた自身もそうではないでしょうか。
今のポジションや役割、それらは、あなたの短所によって実現したものでしょうか。
きっとそうではないと思います。
長所であれば要求をさらに高めていっても、人はそれにこたえるだけの力を発揮することが期待できます。
しかし、間違って短所のところで仕事を任せ、要求を高めていくと、音をあげて、つぶれてしまうリスクがあります。
ほとんどの人は完璧ではありません。
ですから、その人一人に全部完璧にやってもらおうとすると、本当にいい長所をもった人を短所のために活かせなくなってしまうことが起きます。
「角を矯めて牛を殺す」ということわざもあります。
短所が気になって、短所を直すことばかり夢中になって、結果として全体をだめにしてしまうという比喩です。
チームがあり、チームメンバーがいる理由をよく考えてください。
一人で全部完全な人間でなくても、補い合うことができるからチームのメリットがあるのです。
短所はそれぞれが補い合えばよく、長所を一人ひとりに目一杯発揮してもらう。
これが理想的なチームです。
そうすれば、凡人でも非凡な成果をあげることができるのです。
経営者になるためのノート
柳井正 株式会社PHP研究所 2015
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