勝ちたいと誰よりも強く思い、自己変革を続ける
勝つことに対する意識を誰よりも強く持つ
チームワークの前提条件は、メンバー全員が勝ちたいという気持ちになることだと思います。
友だち関係のように、ただ単に仲よくすることとチームワークは違います。
そのようなメンバーの気持ちを作るためには、勝ちたいという思いを誰よりもリーダーが一番強く持っていることが欠かせません。
「最後の一人になってでも自分は勝利のために戦う」
そういった気持ちを持って、チームの輪の中に飛び込み、先頭に立つと、メンバーはリーダーの情熱を理解するようになっていき、目標集団としてのチームの結束は強くなっていきます。
ただし、その時、「自分が自分が」とやるとリーダーは孤立し、本当に一人になってしまって勝てなくなります。
必要なのは、そういった強い気持ちを持ちながらも、メンバーを主役にしてあげる、メンバーがヒーロー、ヒロインになるようにしてあげるというリーダーシップであり、マネジメントの実行です。
勝ちたいと強く願わず、そこそこでいいという会社はつぶれます。
小さな成功に満足して、舞い上がってしまうリーダーもやがて大きな失敗をします。
ウォルマートでも、グーグルでも、サムスンでもどこでもそうですが、生き残っている会社は、勝ちたい、成長したいと誰よりも強く願って、高い目標を設定し、必要な実行を、スピードを持ってやっている会社です。
また、本当に勝ちたい、成長したいという強い動機があると、まだまだ自分たちは足りない、できていないという自覚が自然と出てくると思います。
その自覚は、いろいろなものを学んでいこう、改善していこう、新しいことをやってみようという行動を導きます。
逆に自分たちはよくやっている、十分できているじゃないかと考えていると、傲慢の気持ちを生みます。
それは足りないという自覚が導くものとは真逆の行動を導きます。
単純な図式ですが、勝ち続ける、成長しつづけるためには、勝ちたい、成長したいという動機をいつまでももち続けることが、不可欠なのです。
リーダーが挑戦を率先垂範し「求める生き方」の模範となる
勝ちたいと誰よりも強く思ったリーダーは、次に、メンバーに対して挑戦を鼓舞しないといけません。
しかし、本当に勝ちにこだわった理想的なチームを作るためには、メンバーを鼓舞する前にリーダー自身が先頭に立って挑戦することが重要です。
リーダーが挑戦しないところにメンバーの挑戦はありません。
挑戦をし、高い水準を求める仕事の仕方、あるいはそういった人生の生き方というのは、面白いことなのだと、リーダーが率先垂範して示していくことがメンバーを挑戦にかきたてるためには大切なことなのです。
経済的に豊かになってくると、「求めない生き方」が是認されるような社会風潮が生まれます。
「挑戦しなくてもいい、あるがままの状態でいい。無理して辛い目にあわなくても、わざわざ自分に厳しい試練を与えなくてもいいじゃないか」という考え方です。
特に日本はその傾向が強いです。
学校を出て、会社に入って、何年たったら課長になって、部長になって。
そんなことが自動的に起きると思っています。
そうならないと、社会が悪いと、社会に不満を言います。
そして、「こんな会社なのだから、求めるだけ大変になる。どうせ何の見返りもない。
だから求めない生き方の方が楽でいい」という論理を生み出します。
私はそうは思いません。
本気で頑張れば、何がしかの達成感や成長実感は必ず得られるものだと思います。
そして達成感や成長実感のある人生の方が楽しいと思います。
百歩譲って社会がその傾向にあっても、メンバーが現実に立っているのは、自分が所属している会社です。
であれば、社会はどうかしらないけれど、自分のいる会社は、求めれば求めるほど働きがいや生きがいにつながる会社だということを実感してもらえばいいのだと思います。
これをメンバーに実感として伝えるのはリーダーの仕事ですし、責任です。
実感したメンバーは、挑戦することに前のめりになって働くことになると思います。
世界全体が経済的に豊かになってくると、「求めない生き方」を是とするメンバーが増えてくるリスクはあります。
この考えの蔓延は、強いチームを作ろうとした時、リーダーにとって見えない壁になる可能性があります。
メンバーが自分の人生に対して前のめりのモチベーションを持つようになるためには、やはりリーダーが先頭に立って挑戦し、求めていく姿を示し、その働き方、生き方の充実感を伝えていくということが欠かせません。
これからの時代、こうしたリーダーシップがますます重要になってくると考えておいた方がよいでしょう。
挑戦し続けるために、リーダーが自分に課すべき三つのこと
では、実際に自分がメンバーの先頭に立って、挑戦し続けられるリーダーであるためには、リーダーは日頃の自分にどのようなことを課したらよいのでしょうか。
大切なことが三つあります。
一つは、自分に自分が期待をするということです。
自己否定をしていては、希望は持てません。
希望がもてなければ、そこに挑戦しようとする意欲も湧いてきません。
ですから、挑戦しようと思ったら、「ひょっとしたらできるのではないか」という希望を自分が持てるようにすることが肝心です。
そのためには、「自分しかこれをやれる人間はいない」「自分はこういったことを得意としている」などといった期待を自分にかけてあげるのです。
部下のモチベーションをあげるためには、その前にリーダーが自分のモチベーションをあげることが必要です。
それゆえ部下に期待をすると同時に、自分にも期待することが大切なのです。
二つ目は自己変革です。
変化の激しい時代です。
挑戦の先頭に立とうと思ったら、自己変革をしないと不安で立っていられないと思います。
自己変革をしていない多くの人は、その場面で気づくのだと思います。
「あっ、これはこれまでの自分の能力ややり方では、たいした成果が出ないな」と。
それで失敗したくないから、挑戦を避けるのです。
ですから日々、自分自身を変えていき、どうやって成長させていくかを真剣に考えておかないと、挑戦の先頭に立ち続けることができなくなるのです。
本当に成長を考えて、準備をしている人間にしか未来はやってきません。
自分には能力がある、優秀だと思い込んでいる人ほど、この準備を怠り、時代に遅れを取るようになります。
自分を冷静に客観視し、謙虚に自分をとらえて、自己変革を続ける。
いつまでも挑戦し続けられるリーダーになるためには、とても重要なことです。
自己変革信条と行動にしないリーダーと会社は、成長し続けられないと思います。
三つ目は自己管理です。
経営者として自分を律するということです。
それには大きく言って二つあります。
経営者としての本道以外のことには近寄らず、度を過ぎた贅沢をするようなことを慎み、まじめに経営道を歩むということです。
本道以外のことや過ぎた贅沢にうつつを抜かしていると、あっという間に時代についていけなくなります。
もう一つは健康管理です。
経営者というしごとは肉体的にも精神的にも大変ハードです。
健康を害しては、まともに機能することはまず無理な仕事です。
若いときは体力に任せて、ということもありますが、それは体力の限界を知っていないだけのことです。
いつまでも挑戦の先頭に立てるようにするためには、健康管理を自分にしっかりと課すこと。
これも経営者というリーダーを務める人間の義務であり、責任だと思って下さい。
経営者になるためのノート
柳井正 株式会社PHP研究所 2015
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