世界の「頭のいい人」はどんな人か?②

人生

あえて勝ちを譲る。ー相手に花を持たせることで、能力の高さを見せつけるー

わざと普通の人のふりをする

MENSA(メンサ)という会があることをご存知の方は、もしかしたらいないかもしれません。
MENSAは、1946年にイギリスで創設された国際的なフループ。
テストを受けて全人口の上位2%のIQの持ち主という基準に達すれば、誰でも入ることができます。

現在、100ヶ国以上に会員を擁し、その数は合計で10万人ほどだそうです。
グループの名称である「MENSA」は、ラテン語で「テーブル」という意味。
丸いテーブルを囲んで、メンバーが皆、平等に集まる様子を表しています。
「人種、皮膚の色、宗教的信条、国籍、年齢、政治、学歴や社会的なバックグラウンドとはまったく関係なく、すべての会員は平等な権利と義務を持っている」という意味が込められています。

私は数年前にこの存在を知り、「どんな人が集まっているのだろう?」と興味本位で試験を受けに行きました。
このとき、試験監督をしていたNさんが、日本のMENSAの中心的な人物でした。

Nさんは一見すると、ごく普通の男性です。
背が高くほっそりとして人当たりの良さそうな紳士。
試験のときにはNさんとあまりお話しする機会もないまま(当たり前ですが)、会場を後にしました。
「試験をパスしました」という通知の後、何度か定例会などで顔を合わせる中で、「この人は『普通の人』のふりをしているんだ」ということにようやく気づきました。

本当の「能ある鷹」は必要なときは爪を見せる⁉

MENSAの人は「やらなくても異常にできてしまう」人なので、小さい頃から周囲の人に奇異な目で見られり、同年代の友だちと話が通じなかったりと、けっこう悲しい思いをしてきている人が多いのです。
MENSAの中でも能力の高い部類に属するNさんは、そういう現実があることを知って、自分を「普通」に見せるすべを身につけてきたのです。
「能ある鷹は爪を隠す」ではありませんが、Nさんは、「爪をどう隠すか、いつ爪を見せるのが効果的か」ということをいつも考えているのです。

いつまで経っても忘れられないエピソードが、MENSAの数人で集まった食事会のときのこと。
これは、あるテレビ番組への出演のお疲れ様会として開かれたものでした。
そこでNさんはなんと、「じゃんけんで負けた人がその日の食事代をおごる」というルールを提案。
皆は驚きつつも、エキサイトし始めました。
その場でじゃんけんに勝つためのセオリーを披露し合ったりと、ちょっとしたアトラクションの様相も呈していました。

負けることで能力をアピールできることも

白熱したじゃんけん大会になりました。
結果はというと、Nさんは見事(⁉)、最後まで全敗。
当初の約束通り、その日の支払いは、Nさんが受け取った出演料で賄うことになりました。
わざとじゃんけんに負けるというのはかなり高度な技ですが、MENSAの皆の反応を知り尽くしているNさんですから、不可能なことではありません。

じゃんけんの話は一例にすぎませんが、Nさんはいつもこんな風に皆を盛り上げます。
そしてNさんは、いかにもNさんらしく、スマートに能力をアピールするのです。
自慢話やヒネリのない(時には、うざい)自己アピールに終始する人も多い中で、負けることで能力をアピールできるというのはすごく格好いいことだなと私は思っています。

あえてリスクを負うことで高い能力を証明するというのは、進化生物学などでよくいわれていること。
鮮やかな外見である孔雀の羽や、フラミンゴの体色の話と通じるものがあるのかもしれません。
Nさんのやり方は、そこに繊細な知性を感じさせるものでした。

世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた

中野信子 アスコム 2021

 


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