マザー・テレサと私の母
ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは、その生き方を通して、世界中の人々に大きな影響を与えました
ノーベル賞の授賞式では、その生き方を象徴する有名な言葉を残しました
授賞のスピーチで、
「私は、この賞をいただけるような価値のある人間ではないけれど、最も貧しい人々に代わってこの賞を受けます」
賞金を受け取ったとき、
「このお金で、いくつのパンが買えますか」
記者から「世界平和のために、私たちは何をしたらいいですか」という質問を受けたとき、
「家に帰って、家族を大切にしなさい」
マザー・テレサは、生涯にわたって、インドを中心に貧しい子どもたちを支援し、困っている人たちに貢献し続けました
彼女は、自分が使命と感じたことを、まったくの一人から、あきらめずに貫いてきました
それは、頑張ったことでもなく、だれかに強制されたものでもありません
それは、マザー・テレサの生き方そのものだったのです
マザー・テレサの取り組む姿勢は、国境や宗教という枠を超えていました
それは、どのような人でも、亡くなった人をその人の宗教に応じた形で看取っていたということからもわかります
その献身的姿勢は多くの人に感動を与え、彼女の活動を支援する人々は、瞬く間に世界中に広がっていったのです
話は変わりますが、少し、私の亡くなった母のお話をさせてください
私の母は、一人の普通の市民でした
特に、何か優れた能力を持っているとか、何かこれをやったといえるようなことがあるわけではありません
料理が得意というわけではなく、片づけも苦手なほうです
やってきたことといえば、何十年にもわたって、父がやっている町工場の仕事を手伝ってきたことくらいです
私は社会人になって間もなく、家を出て一人暮らしを始めるようになりました
そして、一度家を出ると、実家に帰るのは年に数回位になってしまいました
たまに実家に帰ると、母はいつも同じことを、私に聞きました
「ちゃんと、ご飯食べてる?」
私の答えも簡単で「食べてるよ」でした
会社をつくり、マスコミにも取り上げられるようになりました
はじめて新聞に載ったとき、その新聞を持って、母に会いに行きました
そして、新聞を渡したとき、母は、私に聞きました
「ちゃんと、ご飯食べてる?」
「食べてるよ」
さらに、その後、政府のさまざまな研究会の委員を務めさせていただきました
ある日、母に、これからの日本をどうしていきたいかという話をしました
そのときも、同じことを母が聞いてきました
「そんなに忙しくて、ちゃんと、ご飯食べているの?」
「食べてるよ」
母は、いつも私の体のことを、心配してくれていました
その母も、長い闘病生活の後に亡くなりましたが、どんなときも変わらない、愛にあふれた母の言葉、生き方は、私の心の支えとなっています
私にとって母は、マザー・テレサです
自分らしく自分のペースで、できることから
人が最も影響を受けるのは、まわりの人、出会った人の生き方だと思います
自分も、まわりの人に大きな影響を与えているのです
影響を与えるというと、何か特別なことをしなくてはいけないのではないかとか、だれもやったことがないことに挑戦しなければならないのではないかと、むずかしく考えてしまうかもしれません
けれども、まわりの人に影響を与えるというのは、そんな大げさなことではありません
自分がひとに影響を与えることなんてできるのだろうか、などと思う必要はまったくないのです
たとえば、夫婦が子育てをするときに、二人仲良く、幸せに生きるだけで、子どもに、その人生を変えるほどの大きな影響を与えています
もし、子どもが幸せに生きている両親を見て、「お父さん、お母さんみたいになりたい」と思ったら、きっとその子は、両親の生き方から大きな影響を受けたのだと思います
一日中、笑顔で生きているだけでも、まわりの人たちに大きな勇気を与えます
心が安定していて不満や批判を言わないだけで、まわりの人に貢献していることになるのです
周囲の人に感謝をしながら生きているだけで、人と人とのすてきなつながりをつくっているのです
特別なことができなくても関係ありません
自分らしく、自分のペースで、自分が決めたことを、できることからやっていけばいいのです
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