チームを作る力③

リーダー

目標を共有し、一人ひとりの責任を明確にする

目標はしつこく繰り返し伝えてはじめて共有できるもの

仕事は全てチームプレイです。
チーム全員の力で成果をあげていく。
その時、まず大切なことは、このチームはいったいどのような成果を目指すのかといった目標の共有です。
それがないと、メンバーは何のためにこの仕事をやっているか分からなくなり、仕事が作業になります。
また、達成しているのか達成していないのかも分からないですし、貢献しているのか貢献していないのかも分からなくなります。
そうなっては、仕事をやっていても張り合いが持てません。

スポーツの世界でよく見かけることですが、「ああ、このチームは目標が共有できていないな」というチームは、個人の動きがバラバラで、気合が入っている様子が見えなくて、ダラダラとしてゲームをします。
結果、相手に勝てない。
なのに、負けても本当に悔しそうにしていない。
あるいは負けを誰かのせいにして、片づけている。

ビジネスも一緒です。
目標が共有できていないと、こういった組織行動になります。
ですからチームを作るためには、リーダーは組織全体の目標の明確化と共有に尽力しなくてはいけません。
目標共有の仕方を勘違いしている人の中には、年度の初めや事業の立ち上げの時には、目標を伝えるのですが、それ以降はあまりふれない、紙に書いて壁にはってあるだけ。
そんな人もいます。
あるいは、機会的に目標を読み上げておしまい。
自分の言葉になっていない。
そんな人もいます。

残念ながら、そんなことでは目標の共有はできません。
一度聞いただけで、「よし、分かった」そんなふうには人間なりません。
もちろん、その瞬間は頭の中では分かったつもりになるかもしれませんが、日々の仕事に追われて、忘れてしまったりします。
だから、目標の共有は、本当にメンバーが分かるまで、何度も同じことをしつこく繰り返し伝えないと成り立ちません。
本当に分かるというのは、メンバーが他の人にもその目標を自分の言葉で熱く語っている状態、あるいはメンバーの体が勝手にその目標のために動いている状態を言います。
そこまでになってはじめて目標が共有されたと言えるのです。
このためには、リーダーが言い続けるしかありません。

GE社(ゼネラルエレクトリック社)の元CEOのジャック・ウェルチさんはこんな言葉を残しています。
「1日のうちにあまりにも何回も会社がめざす方向性について話して、自分自身でいやになったことがある」(「ウィニング勝利の経営」)
名経営者とうたわれたジャック・ウェルチさんでさえ、目標の共有にはこれほどの努力をしたのです。
これから経営者を目指す人が、その何倍も何十倍もの努力が必要なことは明白です。
また、こうした努力を、引退するまで継続したからこそ、ウェルチさんは名経営者という評価を得たとも言えます。

必ず個人単位で責任を明確にする

さて、目標を共有できたら、それでよいかというとそういうわけにはいきません。
チームプレイの基本は、メンバー一人ひとりが自分の責任を果たすことです。
これもスポーツにたとえると分かりやすいと思うのですが、例えば、野球の二塁手が、いつもエラーばかりする。
あるいはピッチャーがストライクが入らず、フォアボールばかり出す。
自分の仕事をしっかりやってくれないと、ゲームになりません。
他の選手も、このチームで一緒にゲームをするのがいやになってしまいます。
やはり、それぞれのメンバーが自分の責任をしっかり果たす。
これがチームプレイが成り立つ基本なのです。
そのためには、それぞれのメンバーが「これをやるのが自分の責任なんだ」と強い自覚を持つところから始めなければいけません。

自覚形成にとって一番大切なことは、「この仕事は誰の責任なのか」を明確にすることです。
明確にするというのは、つまり、「一つの責任は一人」だとすることです。
団体という責任の取らせ方ではだめです。
一つの仕事をチームでやるにしても、「責任の主体者は誰々」という個人レベルで明確にしないと、結局無責任体制になります。
個人という単位でっしか本当の責任は取れないのです。
人というのは、何人、何十人もいると、誰も自分の責任だと思わなくなってしまうのです。
全体責任とはチーム責任というと聞こえはいいのですが、結局誰も責任感を強く持たないまま、仕事が進むことになります。
責任が不在ということは、求めている成果があがってくることがない、ということです。

仕事を本人に考えさせることが、責任感の根源となる

では、本当に本人が責任を持ってその仕事をやる、というようにするためには、どうしたらいいでしょうか。
それは、その仕事を本人に考えさせて作らせるということがポイントになります。
やはり人から命令されて、命令された通りにやる、あるいは上から落ちてきて、落ちてきた通りにやる、そういった仕事は、本当の意味で自分の仕事だとは人間思わないものです。人の仕事を喜んでやる人間はいません。
自分の仕事だと思わない限り、真剣になりませんし、責任を取ろうとは思いません。
自分の仕事だと思うこと、これが、人間が自分から仕事を進んでやる根源になるのです。
根源ができれば、人は自然と必死にやりますし、高い基準を目指してやっていこうという気持ちが生まれるのです。

ところが、人とか組織とかの本質を知らないと、管理、管理の世界に入っていってしまいます。
そして、管理のために、やることを上が全部決めてしまう、やり方まで全部上が決めてしまいます。
その方が一見効率がよいように思えるのですが、そうやってしまうと、その仕事に対するモチベーションが湧きません。
だから生産性の高い仕事のやり方を追究しようとは思いません。
結果的に効率はよくなりません。
責任感も湧きませんから、上のレベルを目指すこともありません。
結果的に効果が高いアウトプットにもなりません。
だから、もっと自由に考えさせて、権限を与えた方が、結果もよくなる。
本人が自分の仕事だと思ってやるから責任も追及できる、
というわけです。

厳しい責任の追及をしても、自分の仕事だという責任感があるから、「なにくそ」と思って、次は何とかしてやると頑張って、上司を見返すような仕事をしてくれることだって期待できます。
次の「任せて、評価する」の項でも詳しく述べますが、本当の意味で仕事の責任感を持たせようとしたら、リーダーはメンバーに対してこうした仕事の与え方をするべきだと思います。

目標は共有した。
しかし権限は与えないし、責任は追及しない。
あるいは権限は与えないくせに、責任だけ追及する。
こんな中途半端なスタイルになっていると、本気で目標を実現しようとするチームは作れないと考えてください。

経営者になるためのノート

柳井正 株式会社PHP研究所 2015

 

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