あきらめなかった二人の起業家のお話
兵庫県の但馬地方で、和牛生産を始めた田中一馬さんという若者がいます
自然の中でのびのびと育った牛の肉を直接販売する「パートナー制度」を始めて、業界を超えて大きな話題になっています
子牛が成長するまで、実際に牧場で触れ合うことができます
そして最後に、その牛の肉を、命の大切さに感謝しながらいただくのです
彼が和牛生産を始めた理由は、両親が和牛生産に携わっていたからではありません
子どものころに、祖母の家の近所にいた牛と触れ合うことで、牛が大好きになり、どうしても、牛にかかわる仕事がしたかったのです
まったく和牛生産に関係のなかった人が、それを始めるということは、一般には無理だといわれています
しかし彼は、学生のころから和牛生産を勉強し、和牛生産農家で修業し、幾多の困難を乗り越えて、独自の価値を提供する和牛生産農家になったのです
また、岩手県の森岡で、古いものに命を吹き込む「リメイク」をテーマにしたお店をオープンさせた、高岡千晶さんという女性がいます
「リメイク」とは、ヴィンテージといわれる数十年前のすてきなデザインの生地や、着る機会がなくなった着物などの生地を、バッグや小物などに再生することです
とはいえ、マーケットがあるかないかわからない分野で、独自のお店を始めることは、一般にはかなり難しいものです
しかし、彼女のリメイク技術やデザインセンスは、今までのイメージをまったく覆すほどの感動を生み出し、リピーターが後を絶たず、口コミで広がっていきました
彼女は人一倍の努力で、それらのノウハウを身につけていったのです
そもそも、彼女がこの「リメイク」というテーマに関心を持ったのは、まわりの反対を押し切って行ったアメリカでの留学時代の極貧生活からでした
しかし一方、さまざまなモノが「古くなったから」という理由で、簡単に捨てられていることに、とても心を痛めました
彼女は、「どんなに古いものだって、それを活かそうとする人の心があれば、必ず新しい価値に生まれ変わる」と信じ、あきらめずに挑戦し続け、独自の世界観を創り上げてきたのです
この二人の起業家に共通することは、そこに事業の可能性があったからではなく、あきらめない理由があったことです
あきらめないための、自分だけの理由を見つけ出す
あきらめない理由があれば、どんな夢でも実現することができます
逆にいえば、あきらめない理由がないから、あきらめてしまうのです
ですから、自分の夢や目標について、自分はなぜそれをやりたいのか、自分にとっての意味を見つけることができれば、それがあきらめない理由となり、どんな状況であっても、あきらめないでいられるようになります
あきらめない理由を明確にするには、自分がやりたいことが自分の過去の体験や価値観、人生観とつながっていることが必要です
「自分が過去にとても楽しい体験をしたので、たくさんの人に同じような体験をしてもらえるような仕事がしたい」
「過去も自分がとてもつらい体験をしたので、一人でも同じようなつらい体験をしないですむような仕組みを社会につくりたい」
「尊敬している両親の仕事を引き継いで、後世に伝えていきたい」
「自分が大好きなスポーツを通して、一人でも多くの人に、夢と勇気を与えたい」
これらのように、自分とこれからやりたいこととの間に、一般論ではなく、自分だけの理由を見つけ出すということです
そのヒントは、自分の過去であったり、身近ところで起こったことであったり、社会に対する疑問であったり、子どものころから好きだったことであったり、人それぞれにあると思います
「やりたいか、やりたくないか」を判断基準にする
では、一方、あきらめない理由にならないこととは、どのようなことなのでしょうか
その典型が「そこにマーケットがあるから」というものです
これは動機が本人と繋がっていません
ですから、たとえ事業を始めることができたとしても、結果が出るまでに時間がかかったり、マーケットが変わってしまったりした時に「何で自分はこんない大変なことを始めてしまったのだろう」と嫌になって、あきらめてしまうことになりかねません
新しいことに挑戦するためには、自分の中に、「どうしても実現したい」といったわき起こるような動機が必要なのです
それがないと、「ここにマーケットがあるから、こっちへ行こう。次はあのマーケットだ。じゃあ、そっちに行ってみよう」というように、環境に振り回されてしまいます
これでは、取り組み方が中途半端になってしまい、なかなか結果がでないことを理由に、あきらめてしまいます
「マーケットがあるからやろう」というのは、大体、うまくいくことを前提に考えています
「好きだからやる」「どうしてもやりたいことだからやる」のではなく、「この分野ならばうまくいく」と思って、その分野に進出しようとしているのです
ところが、実際にやってみると、あらかじめ想定していたようにはうまくいきません
それはなぜかというと、どんなにマーケットがあったとしても、事業を始めてみると、想定外の問題がたくさん発生するからです
たとえば、人の問題、お金の問題、ノウハウの問題などのようなものです
すると、たとえマーケットがあったとしても、毎日さまざまな問題が起き続ける状況の中で、モチベーションが下がって、あきらめてしまうことがとても多いのです
結局、マーケットの有無だけで、事業を行うということは、そもそも本当にやりたいことではないため、はじめから、どこかにあきらめる「限界」をつくっているのです
一方、あきらめない理由があり、「うまくいかなくてもやる」と思っている人は、たとえどんなにうまくいかないことがあったとしても、そのことが嫌になる理由にも、やめる理由にもなりません
ですから、置かれた状況に左右されずに、挑戦し続けることができるのです
要するに、大切なことは、何をするにしても「なぜやりたいのか」という自分の思いを判断基準にするということです
自分の思いは、うまくいかなくても、周囲の人が無理だと言ったとしても、簡単にあきらめることはないでしょう
マーケットを読む力よりも、私は、やりたいという自発性、つまり、その人だけの「あきらめない理由」を持つことが、とても大切なことだと思います。
|
1日1分元気になる法則
福島正伸 中経出版 2010