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薬学生の教科書:信頼関係の構築

一般目標:患者・生活者、他の職種との対話を通じて相手の心理、立場、環境を理解し、信頼関係を構築するために役立つ能力を身に着ける

あなたが信頼できる人は?”この問いにあなたはどのように答えるだろうか
多くの人は、しばらく考え、家族や友人の名前をあげるだろう
では、”信頼できる理由は?”という問いに対してはどうだろう
その理由を言葉に出したことがなければ、答えることが難しい問いである
これまでの自分の経験を振り返ってみよう
親子、友人、先輩と後輩、教員と学生など、さまざまな関係のなかで、信頼できると思った相手はどのような人だろうか

病気を治したいと思う患者や、健康に暮らしたいと思う地域の生活者にとって、医師、薬剤師をはじめとする医療人は、自分の病気や健康について相談し、提案を受ける専門職である
患者は医療人を信じ、頼ることができるからこそ、安心して治療を受けることができる
生活者は自分が信頼している医療人だからこそ、不安に思うことを相談し、助言を受け入れる

また、薬剤師は他の医療人と相互に信頼し合う関係のなかで、自分の役割を最大限に発揮することができる
すなわち、他者から信頼される人間にならなければ、医療人として社会に貢献することができない

最初の問いかけに戻ろう
誰を、なぜ、信頼しているのか
楽しいからだけではないはずである
楽しく会話をする相手である一方、自分がつらいとき、悲しいときにその気持ちをくんでくれる人を、あなたは信頼しているのではないだろうか
あなたが病気になったとき、どのような薬剤師に自分の不安を聴いてもらいたいか考えてみよう
”相手の心情を察し、寄り添い、力づける”
患者・生活者の立場で考えると、このように自分の気持ちを理解したうえで、自分のために専門性を発揮してくれる医療人が、信頼に値するのではないか

すなわち、将来医療人となる薬学生は、他者との信頼関係を築くための能力を身に着けることが求められている

社会で生活していくうえで、人とのかかわりは必須である
薬学準備教育ガイドラインに、人の行動と心理の基本的知識に関して、薬学生として身につけるべき目標が掲げられているのも、このためにほかならない
日常何気なく行っているコミュニケーションの本質を体系的に学び、薬剤師として他者と信頼関係を構築するために、どのように配慮すべきかについて考えよう
相手を理解しようとする気持ちがあっても、相手が伝えたいことやそのときの状況を全身で感じとり、行動に表さなければ、その気持ちを相手に伝えることはできない
信頼されるようになることは容易ではない
ここでの学びを基盤として、真の意味での”コミュニケーション力”を発揮できるようになるために努力を積み重ねて欲しい


スタンダード薬学シリーズⅡ 1 薬学総論 Ⅰ.薬剤師としての基本事項
Ⅳ 信頼関係の構築 石川さと子

東京化学同人 2015
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